- 作者: ロマンドブジンスキ,ルイ・クリストフザレスキ=ザメンホフ,青山徹,中村正美,小林司
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2005/01
- メディア: 単行本
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この本は、エスペラント語の創始者のザメンホフのお孫さんの回想録である。
祖父のザメンホフについての話もすこし出てきて、それも面白かったのだけれど、何よりもこの方自身の数奇な人生と体験談がとても感銘深く、とても胸打たれ、面白かった。
ザレスキ・ザメンホフは、ザメンホフの孫としてワルシャワに生まれ育ち、幸福な家庭で、幼少時より世界のエスペラント大会などにも出て、とても幸福な幼少時代を過ごしたらしい。
それが、14歳の時に第二次大戦が起こったことにより、一転して筆舌に尽しがたい辛酸をなめることになる。
父や叔母たちはナチスに殺され、自身もゲットーにユダヤ人として入れられ、何度も絶体絶命の危機をかいくぐりながら、20歳の時に終戦を迎えるまでに奇跡的に生き残った。
その体験談は、そのままで映画になると思われるほど、とてもすごいものだった。
なんというか、あの時代のポーランドとユダヤ人の経た体験というのは、あらためて、なんというか、あまりにも過酷過ぎるとしか言いようのないものだと思った。
そして、ナチスのあの狂気は、いったいなんだったのだろうとあらためて思う。
ザレスキは、戦後は建築学を学び、PSコンクリートの分野では世界的な権威となって、世界のあちこちに巨大な建物を建てているそうである。
北海油田のコンビナートや、なんと日本の瀬戸大橋へのアドヴァイスもしたらしい。
この本は、前半は戦時中の数奇な運命の回想、中半は戦後の仕事の話を少々、そして後半は各地のエスペランティストを訪れた時の思い出、ザメンホフや家族のこと、およびこれからの世界やエスペラントについて語ってあり、どれもとても興味深かった。
EUや国連の、膨大な翻訳の手間を省き、紙資源の浪費をやめるためにもエスペラントが大きな寄与をできるはずだとの示唆も、とても興味深かった。
エスペラントは、本当に使いやすく、生命力があり、誰でも容易に習得できる言語だと、いろんな実例を聞いていてもあらためて思う。
ハンフリー・トンキンという英米文学の研究者の「人はエスペラントに生まれている」という言葉も、なるほどーっと思った。
あと、何よりも興味深かったのは、ザレスキさんの、それほど絶望的な体験を経てきたにもかかわらず、一貫して深い人間への愛と強靭な意志を感じさせる語り口である。
特に、
「しかし、“希望”はただ受身で待っているもではなく、積極的な姿勢を必要とするものです。」(407頁)
という言葉は、なるほどーっと思った。
「希望が終る時、地獄が始まる。」というのも、そのとおりと思った。
人類の未来や相互理解や友愛については、今日、楽観的な要素よりも悲観的な要素の方が目に付きやすいかもしれない。
事実を見れば、二十世紀や、二十一世紀初頭のこの数年間の出来事だけでも、人を絶望させるに足る出来事が山のようにあった。
しかし、そうした状況にあって、なおかつ絶望せずに、希望を人が持つためには、人には希望の種が必要なのだろうと思う。
そして、希望のないところには、究極的にはみじめさと不幸しかないのだろうとも思う。
この本からは、一貫して、何かとても強い意志、強靭な意志のようなものを感じたのだけれど、読み終わって、それが「希望」への意志だったのだと、わかった。
そして、その背景にあるのは、エスペラントなのだろうということもわかった気がした。
あと、読んでて、ブラジルのボーナ・エスペロー(Bona Espero)という、孤児を集めて農園で共同作業をして自助自活の術を身につけるための団体の話が、なんだか心にとても残った。
世界のあちこちに、そうした、貴重な人たちがいるのだなあ。
大事なのは、大海の一滴だとしても、良き大海の一滴になることなのだろうと思う。
良き大海の一滴こそが、希望の種であり、人類の希望を本当に支えていくものなのだろう。
ザメンホフの始めたエスペラントは、本当に、確実な、希望の一滴一滴であり、それがどんなに力強いものであるか、この本であらためて教わった気がする。