小林よしのり 「日本を貶めた10人の売国政治家」

日本を貶めた10人の売国政治家 (幻冬舎新書)

日本を貶めた10人の売国政治家 (幻冬舎新書)


編者は小林よしのり
二十人の言論関係の人がそれぞれに意見を述べていて、「売国政治家」として、小泉さんや河野さんや小沢さん、竹中平蔵さんなどの名前が挙げられて批判されていた。

面白いところもないわけではないが、ちょっとあまりにも罵倒スタイルな文章が多いところが、個人的には首をひねらざるを得なかった。

たとえば、小泉政治が、基本的に財務省アメリカの意向に沿ったものであり、その郵政改革や医療改革が大変な問題をはらんだものだったことは、私も異論はない。
しかし、すでに20世紀型福祉国家がそのままでは成りたたなくなっていたという歴史の大きな流れや、小泉政権よりも前の自民党政治が公共事業ばら撒きしかできない無能ぶりをさらし続けてきたことを考えれば、小泉・竹中両氏には、もちろん批判すべき点もあるながら、一定の評価すべき点もないわけではないだろう。

また、小沢一郎さんについても、単なる自民党内部の私闘から自民党を割って、理念なき政界をつくったように書かれているが、いささか偏った見方と思う。
加藤の乱後の加藤紘一ですら自民党に留まることができたのだから、本当に何の理念もなければリスクをとらずに自民党にい続けただろうし、官僚支配から脱却して政治主導のための改革をなそうとしていたという面も小沢さんにはあったと思われる。
理念もなく権力に執着して今の日本の混迷をつくった責任は、本書にも批判されているけれど、小沢さんよりはよほど河野洋平野中広務村山富市ら自社さ連立政権をつくった人々に起因するように思われる。

一応、本書においては、西尾幹二のように非常に一面的な小沢批判をしている人もいれば、勝谷誠彦副島隆彦のように小沢さんを擁護している人もいるので、必ずしもひとつの見方に偏っているというわけではないのかもしれない。
小泉さんについても、批判している人もいれば、かなり好意的な人もいるようではある。

ただ、なんというか、やっぱり全体として、冷静に政策の是非や歴史から見たときの意味をさまざまな角度から論じるということよりも、断罪と強い批判によるカタルシスに力点が置かれているように思われる。
今の若い人に一部ではけっこう反響があってよく読まれている本らしいが、これはこれで良いとして、またこの本とは違う視点や視野や論じ方も大事にして欲しいと思った。
たとえば佐々木毅の本を合わせて読むなどもして欲しいと思う。