
女帝の手記―孝謙・称徳天皇物語 (1) (中公文庫―コミック版)
- 作者: 里中満智子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1998/01/01
- メディア: 文庫
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おもしろかった。
奈良の大仏建立などの華々しい文化事業の背後の、いろんな人間模様が描かれていて、いつの時代も、けっこう人生ってたいへんで苦労が多かったんだろうなあと感じさせられた。
孝謙天皇と道鏡は、一般的にはとても悪く描かれることが多い人物だけれど、この漫画だと、かなり良く描かれている。
以前、孝謙天皇の書を見て、とても見事な字だと感じたことがある。
暗愚な人だったら到底書けない、精神の格の高さを感じた。
だから、この漫画が描くように、孝謙天皇は暗愚な女帝ではなく、賢くて魅力的な人物だったんじゃないかなあという気がする。
それにしても、この漫画で印象深いのは、現実逃避を繰り返してひたすら仏教に救いを求める、半ば神経衰弱気味の聖武天皇の様子。
実際はどんな人だったのかはわからないけれど、あのわけのわからない遷都の繰り返し方や、仏教への入れ込み方は、この漫画が描くように、現実逃避へのすさまじい試みだったような気もする。
それに比べて、漫画の中での、聖武天皇の妻の光明皇后や娘の孝謙天皇のしっかりぶりは、とても印象的。
いつの時代も、男性の方が神経が弱くて、女性の方が案外強いのかもしれない。
光明皇后は、興福寺の阿修羅像のモデルという説を聞いたこともあるし、きっときりっとしたきれいな人だったのだろう。
そういえば、西大寺は、道鏡がつくったらしい。
西大寺は、真言律宗の本山だし、その後の日本の律や福祉を考える上で欠くことのできない重要な寺。
そんなすごい寺をつくったのだから、道鏡も、ひょっとしたら案外立派なお坊さんだったのかもしれない。
歴史は、敗れた側は悪くしか描かれないけれど、藤原支配を覆そうとした、あるいは天皇制そのものも覆そうとしたという点で、孝謙天皇と道鏡は、日本の歴史上でも非常に稀な存在だったように思える。
良くも悪くも、後世の人は、なかなかそこまでの度胸の半分もなかっただろう。
鑑真や行基や吉備真備など、天平時代はその後の日本を考えるにおいても、とても大きな影響を与えた僧侶や知識人が輩出した時代。
あらためて、興味深い時代だなあと思った。