佐々木毅 「よみがえる古代思想」

よみがえる古代思想 「哲学と政治」講義(1) (連続講義 哲学と政治)

よみがえる古代思想 「哲学と政治」講義(1) (連続講義 哲学と政治)

とてもわかりやすく、ギリシャ・ローマの古代政治思想の概略がまとめてあって、面白かった。
はじめて読む人にもきっとわかりやすいと思うし、ある程度知識がある人が読んでも、概略を整理し、あらためて大きなストーリーを見るのに良い本なのではないかと思う。

なぜギリシャ・ローマの古代思想を学ぶ必要があるのか、という問いを冒頭で提起した上で、筆者は、その時代が一番純粋に政治と生きる意味の関係について率直に問題関心が持たれ議論された時代だったから、と述べる。

そして、「法」(ノモス)への自発的な服従によって形成されていた古代ギリシャのポリスが、特定の人物への服従によってつくられていたペルシア帝国と対比され、西洋の「自由」の意識や伝統となったこと。

さらに、ポリスにおける活動こそが、人生の意味だと古代ギリシャでは受けとめられていたこと。
そうしたギリシャの伝統に対し、ソクラテスが「魂への配慮」を提起し、その弟子達によりさまざまな応答やバリエーションが生じたこと。

マケドニアの勃興やローマ帝国の成立により、広域国家ができたことにより、小さなポリスを前提としたギリシャの政治思想が破産し、法律・自然法を重視するストア主義のローマ思想が生じ、政治は生きる意味を与える活動ではなくやむをえざる必要悪ととらえられ、自由よりも平和が重要な価値を帯びるようになったこと。

といった、ギリシャからローマにかけて思想史のおおまかな筋が、とてもわかりやすく面白く描かれていた。

もちろん、細部では異論も成り立ちうるかもしれないが、面白いストーリーだったと思う。

さらに、末尾の部分で、こうした古代思想への応答として西洋が渾身の英知を傾けてさまざなま問題を議論した18世紀の政治思想が、19世紀の思想の摂取からはじまった日本においてはほとんど摂取されてこなかったことを指摘し、また利益政治や「命あっての物だね」に終始する戦後の政治への清涼剤やオールタナティブとして古代思想がこれからも意義あることを指摘しているのは、あらためてなるほどと思った。
古代思想、および18世紀思想というのは、これからの二十一世紀の日本においても、政治や社会のあり方を考える上で、最も参照すべき、しかもいまだに十分学べていない領域なのかもしれない。

ギリシャ・ローマの政治哲学について、おおまかなデッサンを頭に描くには、良い一冊なのではないかと思えた。