現代語私訳『福翁百話』 第四十章 「子どもの品格を高く育てるべきです」

現代語私訳『福翁百話』 第四十章 「子どもの品格を高く育てるべきです」



家の雰囲気を良くして、子どもの良い性質を育むことはもちろん大切です。
しかし、この社会の風習やありかたは一般的にあんまり良いものではないので、子どもを養育する時は交際する隣近所を選択することも大事なことです。


ですが、不幸にも、自分の家の周辺の人々の雰囲気や柄があんまり良くない場合は、どのように対応すればいいのでしょうか。


そもそも、子どもの性質は、自分の父母を最も良いと思い、自分の家を楽しいところだと思う心があります。


ですので、この子どもの心を利用して、この心をどんどん育てることです。
そもそもこの近辺で自分の家ほど尊いものはない。
自分の家族たちほど品格が立派なものはない。自分の家こそ本当に素晴らしい楽しいところだ。
なのでこのような家に生まれた者は自然と他と違っていなくてはならない。
たとえ近所の子どもは見苦しい振る舞いをするとしても、それは他人のことであって、自分の家の子どもは自分の家庭の雰囲気にきちんと則り、元気で活発、清廉潔白でなくてはならない。
他人は他人、自分は自分。
他の人が卑怯であったり脆弱であったりするのはべつに不思議なことではなく、咎めるほどのことではない。
自分の家族の子どもだけは、そのような卑劣な振る舞いを一緒にしないだけ。


といったように、ちょうど他の子どもたちに対して人種が異なるようにうまくとりはからい、次第に子ども精神を品格あり品位あるものに導くならば、子どものまだ幼く弱い心にもすでに早くから独立自尊の気風が生じ、周囲の人々の悪いありかたや雰囲気に接しても次第にそうしたものに染まる心配がないようになっていくことでしょう。


もしくは、現実的な方法として、特に自分の子どもの服装を他の子どもたちと違うようにして区別するなどのことは、自然と効果があるようです。
もしくは、たまたま遠いところにひっこし、その引っ越した先の子どもたちと地域の方言が違っていて、他の子どもたちと区別される時などは、自然とそうした効果があるようです。


昔、封建社会だった時代に、武士の家庭が町の中で暮したり、あるいは田舎に家を移しても、それでもその家の子どもの品格を落とすことがなかったのは、自分の家の気風や雰囲気を一種特別のものにして、ちょうど自らを信じ自らを重んじる城を建てて、周囲の悪い習慣を見ながらも身分の低い人々の平常の状態だと歯牙にもかけなかったことが原因だったことでしょう。
今はもう封建社会の制度はなくなったわけですが、子どもの養育については、自分の家庭の雰囲気や気風を重んじることを、ちょうど昔の武士の家庭のようにして、はじめて、今の世においても、誤ることなく品格を維持できることでしょう。