「比丘避女悪名欲自殺経」

「比丘避女悪名欲自殺経」の書下し文をつくってみた。
また、現代語訳も試みてみた。
短いお経だが、とても興味深いと思う。




「比丘避女悪名欲自殺経」


西晋沙門 法炬訳す


かくの如く我れ聞けり。一時、仏、舍衛国、祇樹給孤独園に住(ましま)しき。
時に異の比丘有り。拘薩羅の在の人間なり。一の林の中に住せり。
時に彼(か)の比丘、長者の婦女と嬉戯し悪名声の起つ。時に彼の比丘、この念を作(な)せり。
「我れ今、まさに他の婦女と共に悪名声を起(た)つるべからず。我れ今、この林中において自殺せんと欲す。」
時に彼の林中に、止住する天神の、この念を作(な)す。
「悪不善に類せず、この比丘は不壊にして過ち無し。而して林中において自ら身を殺さんと欲す。我れ今まさに往いて方便し開悟せん。」
時に彼の天神、長者の女の身を化作し、比丘に語って言(いわ)く、
「諸もろの巷路・四衢道の中において、世間の諸もろの人、我れ及び汝の為に、悪名声を起(た)てて言えり。我と汝と共に相習い近づき、不正の事を作(な)すと。已に悪名有り、今や還俗して共に相娯楽(たのし)むべし。」
比丘答えて言く、
「彼の里巷・四衢道の中を以て、我と汝との為に悪名声の起つ。共に相習い近づき、不正の事を為すと。我れ今且(まさ)に自ら身を殺さんとす。」


時に彼の天神、天の身に還復し、而して偈を説いて言く、


多くの悪名を聞くといえども    苦行者はこれを忍べ
まさに苦しんで自らを害すべからず  またまさに悩みを起すべからず
声を聞き恐怖する者は       是れ則ち林中の獣なり
是れ軽躁の衆生なり       出家の法を成ぜず
仁者はまさに          下中上の悪声を堪耐すべし
心を執りて堅く住むは       是れ則ち出家の法なり
他人の語に由らざれば       汝をして劫の賊と成さしめ
亦た他人に由らされば       汝をして羅漢を得せしむ
如法に自ら知り已(おわ)れば   諸もろの天亦た復(かえ)って知らん


爾時(そのとき)比丘、彼の天神の為に開悟せられ已んぬ。専精に思惟し、煩悩を断除し、阿羅漢を得。


比丘避女悪名欲自殺経








「ある修行僧が悪い噂を立てられて自殺しようとし、ある神さまに思いとどまらされた話」(「比丘避女悪名欲自殺経」現代語私訳)

西晋の僧侶の法炬が訳す


このように私は聞きました。ある時、釈尊は、コーサラー国の首都・シュラーヴァスティー祇園精舎におられました。
その時に、ある変わった修行僧がいました。コーサラー国の出身の人でした。彼は、ある林の中に住んでいました。
ある時、その修行僧は、ある長者の夫人と仲良く談笑していたところ、そのことから悪い噂が立ちました。
その時、その修行僧は、こう思いました。


「私は今、この女性と一緒に悪い噂を受けるようなことになってはならない。私は今、この林の中で、自殺しよう。」


その時、その林の中に住んでいるある神様が、このように思いました。


「この修行僧は、べつに何も悪いことをしておらず、過ちを犯していない。なのに、林の中で自殺しようとしている。私はいま、方便を使って修行僧の目を開かせよう。」


その時、その神様は、その長者の夫人の姿に変身して、その修行僧にこのように語りました。


「あちこちの路地や町中で、世間のいろんな人たちが、私とあなたについて、悪い噂を立てて、このように言っています。私とあなたが一緒に馴れ近づいて、不倫をしたと。すでに悪い噂が経ってしまったのですから、一緒に楽しみましょう。」

修行僧は答えて言いました、


「あちこちの路地や町中で、私とあなたについて悪い噂が立っている。一緒に馴れ近づいて、不倫をしたと。私は今はもう、自殺しようと思います。」


その時、その神様は、再び神様の姿に戻って、このような詩偈を説きました。


「多くの悪い噂を聴くとしても  苦行者はこれを耐えて忍びなさい。
そのことで苦しんで自殺してはいけません  また悩みを自分で起こしてはいけません
単に人の声を聞いて恐怖を起す者は  林の中の動物と同じです
さわがしい軽薄な衆生です      そうした人々は仏道を成就することはありません
あなたは低級な、あるいは普通の、あるいは身分の高い人からの、悪い噂に耐えるべきです。そのような忍耐こそが、仏道の道です。
あてにもならない他人の人々の言葉に従わない時は、あなたは一生の間は悪い人間と言われるかもしれません。
しかし、あてにもならない他人に従わず、そのような人々に依拠しない時、あなたは悟りを得ることができます。
真実に随って自分自身をきちんと知っているならば、さまざまな神々もあなたのことをよく知ることでしょう。」


その時、その修行僧は、その神様によって目を開かされました。そして、一生懸命仏道を思惟し、煩悩を除き去り、悟りを得ました。





(原漢文)


「比丘避女悪名欲自殺経」


西晋沙門法炬訳


如是我聞。一時仏住舍衛国。祇樹給孤独園。時有異比丘。在拘薩羅人間。住一林中。時彼比丘。与長者婦女。嬉戯起悪名声。時彼比丘。作是念。我今不応共他婦女起悪名声。我今欲於此林中自殺。時彼林中。止住天神作是念。悪不善不類。此比丘不壊無過。而於林中。欲自殺身。我今当往方便開悟。時彼天神。化作長者女身語比丘言。於諸巷路四衢道中。世間諸人。為我及汝。起悪名声言。我与汝共相習近。作不正事。已有悪名今可還俗共相娯楽。比丘答言。以彼里巷四衢道中。為我与汝起悪名声。共相習近。為不正事。我今且自殺身。時彼天神還復天身。
而説偈言
雖聞多悪名 苦行者忍之
不応苦自害 亦不応起悩
聞声恐怖者 是則林中獣
是軽躁衆生 不成出家法
仁者当堪耐 下中上悪声
執心堅住者 是則出家法
不由他人語 令汝成劫賊
亦不由他人 令汝得羅漢
如法自知已 諸天亦復知
爾時比丘。為彼天神所開悟已。専精思惟。断除煩悩。得阿羅漢。


比丘避女悪名欲自殺経