「上杉隆さんが言っていることって本当?!五つの疑問」


鳩山由紀夫前首相勉強会 4月6日
http://live.nicovideo.jp/watch/lv45744832



この動画をある方から勧められて見たのですが、見ながらいくつかの疑問がどうしてもぬぐえませんでした。

けっこう影響力がある動画のようで、ネットで検索すると十分に検討せずに真に受けている方も多いようです。

まず、確認しなければならないことは、誰が言うことであれ「根拠は何か?」ということと思います。
大手マスコミや新聞が言うことであれ、上杉隆さんたちのようなフリーランスの記者の言うことであれ、どちらも「誰が言うか」ではなく「その根拠は何か?」ということが一番大事だと思います。

そして、この番組を見て、一番気になることは、その点です。
以下、五つの点について、私の疑問を挙げます。


第一点

海外メディアが4月4日以降、日本を海洋犯罪テロ国家として認識し批判するようになった、と上杉さんは繰り返し批判しています。
その認識に基づいて、菅さんを戦犯だ、もはや信用されないから政権を退くべきだ、と述べています。
ですが、その「海外メディア」の具体例については、一切日付も新聞や雑誌名も述べられていません。


第二点

政府の情報隠蔽ということを上杉さんが繰り返し批判していますが、
3月16日に海外メディアの参加が認められ、同17日にインターネット報道協会(フリージャーナリスト)からの代表取材が認められたことを考えれば、私は比較的早い時期からきちんと情報公開に応じていると思います。
全く応じていないというのであれば、4月6日時点でこのように批判するのもわかりますが、震災後四、五日でこのように対応しているのに、4月6日時点で隠蔽という批判ははたして妥当なのでしょうか?


第三点

上杉さんは、大手の新聞・マスコミからは一切質問が出されない、と述べています。
しかし、首相官邸のHPを見れば明白ですが、
http://www.kantei.go.jp/

菅首相にも、枝野官房長官にも、実際はいろんな質問がなされています。
何をもって「質問がなされない」と言っているのか、事実に即して考えると、疑問でしかたありません。


第四点 

上杉さんは、「枝野さんは格納容器は守られている、放射能漏れはない」と言っていた、安全詐欺だ、と繰り返し批判しています。

しかし、3月16日時点で、きちんと格納容器損傷の可能性と放射能値の上昇について枝野さんは情報を公開しています。
同日8時に白い煙があがっているのが発見され、同日11時の記者会見においてです。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110316/dst11031611330033-n1.htm


第五点

上杉さんは、放射能汚染水を海外に放出したことをもって、菅政権を「海洋汚染テロ犯罪」と批判しています。

しかし、この行為が、国際条約違反かについては、現在韓国においても慎重に検討されており、国際法違反とは言えないこと、および問題は具体的な数値であることが述べられています。
東亜日報 
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2011040680988

まず、明確に区別しておかなければなりませんが、高濃度の汚染水の海洋流出と、今回の集中廃棄物物処理施設の放射性排水は別のものです。

前者は決して「故意」ではなく、止水作業が懸命に進められ、6日に止水され、その結果、放射性物質の検査値は低下しました。
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110409ddm012040162000c.html

後者については、高濃度汚染水の保管場所を確保するための作業であり、この放射性排水はたしかに法定基準の100倍の検査値だそうですが、海洋放出に伴う結果は、

<<
この汚染水の海洋放出に伴う海への汚染影響は、近隣の魚介類や海藻などを毎日、摂取すると、年間約0.6ミリシーベルト被曝(ひばく)する計算となる。これは自然界などから受ける年間線量(2.4ミリシーベルト)の4分の1に当たる。
<<

と、報じられています。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110404/dst11040416330025-n1.htm

こちらも参照
http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110404003/20110404003.html

たしかに、韓国などに事前に十分な通告がなかったことは問題かもしれませんが、アメリカには放出された4日の三日前、つまり1日にすでに合意を得ていたそうです。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2011040802000030.html

上杉さんの言うような、チェルノブイリ並みの被害と国際法違反の行為であれば、アメリカが同意するとはとても思えません。



上記のことから考えれば、上杉さんのこの動画における発言を、十分に検討せずに、そのまま真に受けて、政府に対して憤慨や不満や敵意を持つことが、はたして妥当はかなり疑問があります。


さらには、計画停電原発の事故をごまかすためのプロパガンダだったというのは、いくらなんでも言い過ぎではないかと疑問で仕方ありません。
計画停電を回避できなかったかということは、もちろん検討されて良いことであり、今年の夏も計画停電をなんとか回避する方向性が政府から先日示されました。
しかし、東電管内が一斉に停電(ブラックアウト)することを最も心配し、その危険を避けるために計画停電は行われたわけで、その心配がなければもちろん計画停電をする必要はなかったのでしょうけれど、ブラックアウトの危険性を全く配慮せずに上杉さんが計画停電プロパガンダと決めつけるのは非常に疑問です。


この動画が、鳩山前首相の勉強会だということも、注意すべきと思います。
出席している鳩山さんも、川内博史さんも、小沢一郎さんを支持し、菅さんの退陣や批判を震災の前からも繰り返してきた方です。
もちろん、政治にはいろんな立場や考えがあっていいと思いますし、鳩山さんや川内さんは個人的には人柄としてはおそらく良い人物だと思いますし、おそらくは主観的には善意からそのような活動もされているのだと思います。
しかし、菅首相批判のバイアスがかかった場であることは、十分に割引いて見るべきだと思います。
そのような場であっても、十分な証拠や資料に基づいた情報提供であれば意味がありますが、残念ながら、この動画は一切客観的資料を具体的に紹介することなく、上杉さんの一方的な話の垂れ流しに終始しています。


我々は、このような時期はなおのこと、自分自身で、さまざまなソースを参照し、逐一根拠に基づいて、「誰が言ったか」ではなく「根拠は何か」を確認してからでなければ、何事も軽率に判断や評価をすべきではないと思います。