政治家というのは、恐ろしい人種であると、今までもしばしば感じたが、小沢さんについても、今回の措置を受けた「倫理委員会の皆さんへ 私の主張」という文書を読み、その影響を受けた人々を見て、つくづくそれを感じた。
小沢さんの党員資格停止が六か月という期限を設けず、判決までとされたことについて、多くの小沢支持者が憤慨している。
執行部の判断が規約に違反しているというのである。
いわく、民主党の規約や規則では、党員資格停止は六か月が上限。
ゆえに、岡田さんら執行部は、ルールを無視した暴挙をしている、民主主義に反している。
こうしたことを言っている人々が、ずいぶんネット上にはいるようである。
それらの小沢支持者の人々は、岡田さんを規約やルールに違反した暴挙を行ったと批判し、あらゆる悪罵を岡田さんや菅さんに投げつけている。
たぶん、それらの判断の根拠は、小沢さんの「倫理委員会の皆さんへ 私の主張」の「五」の箇所だろう。
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私はもとより処分を受けるいわれはありませんが、今回の党員資格停止処分の期間について、「党員資格停止期間中の権利制限等の指針」によれば、最長六ヶ月とされているものを、一般職公務員の起訴休職を類推して「判決確定までの間」とされている点についても、前例はなく理解に苦しむところであります。党において規約や指針があるにもかかわらず、定められた以上に不利益を適用することは、法治国家のあり方からしても、また民主主義の国の政党のあり方としても、著しく不穏当であります。これでは規則や指針を定めている意味がありません。
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これだけ読めば、最長六か月とされているのを、岡田さんら執行部が捻じ曲げて処分をしたように読める。
かつ、規約にも違反しているかのような印象を受ける。
しかし、調べてみたところ、民主党の党規約と倫理規則には、一切、党員資格停止を六カ月に限るという文言はない。
http://www.dpj.or.jp/governance/policy/rinri_policy.html
だが、2008年の12月に内規として定められた「党員資格停止期間中の権利制限等の指針」にそうした規定があるらしい。
原文はネットにないのでちょっと確認できないのだが、ネット上に流布されている情報によれば、どうもその中に、
「党員資格停止処分の期間は、一回の処分において原則として最長6カ月以内とする」
という一文があり、それを根拠に小沢さんは上記のことを主張しているらしい。
しかし、だとすると、「原則として」という文言が入っている以上、執行部・委員会が事態を例外と判断すれば、六か月以外の判断もできるという条文になっている。
したがって、ルールを捻じ曲げているとか、民主主義を破壊しているとは、必ずしも言えない。
定められた以上の不利益とは、一概には言えないのである。
党規約にも倫理規則にも六カ月の取り決めはない。
内規においてのみ「原則として」の取り決めがあるだけ。
したがって、岡田さんが規約やルールをねじ曲げているというのは、根拠のない誹謗中傷である。
だが、小沢さんの「倫理委員会の皆さんへ 私の主張」だけ読めば、上記のことは知らずわからず、かわいそうな被害者の小沢さんと、ルールを捻じ曲げて不当な処分を下す岡田さん、という図式が読者の中に強烈に刷り込まれるのだろう。
小沢さんも生き残るために必死であろうし、この微妙なすり替えやプロパガンダを一概に責めようとは思わない。
本人も意識的にというか、ほとんど無意識のうちに一瞬にしてこういうことができるのが、政治家という人種なんだろうと思う。
ただし、政治家の言葉やメッセージを受け取る側は、若干意識的にその真偽を自分で調べたり、疑ってみる姿勢は大切なのではなかろうか。
このように言うと、狂信的な小沢支持者は、私を枝葉末節にこだわると言ってきたりする。
大局を見ないと言ってくる場合もある。
しかし、細部の正確さや具体的な論拠を無視した「根本」や「大局」とはなんだろうか。
しばしば、権力者の巧みな操作や詐術にまんまと乗っかるだけではなかろうか。
小沢派は、今回の党員資格停止処分に憤慨し、十六人会派離脱を賛美し、菅政権を打倒するように主張している場合も多いようである。
だが、そもそも、民主党の倫理規則の第二条の第三項には、
「三 選挙または議会において他政党を利する行為等、党の結束を乱す行為」
が禁止されている。
小沢派十六人の会派離脱や予算関連法案への反対行動は、明白にこの倫理規則に違反する。
菅さんに対してはマニフェスト違反をあんなに糾弾するのに、自らは民主党の倫理規則を踏みにじっても平気というのは、いったいいかがなものだろうか。
どこに政党政治の精神はあるのやら。