大道寺将司句集 『友へ』 抜粋

大道寺将司句集「友へ」(ぱる出版)より抜粋



初雪や 濁世の底に 救ひあり

それぞれの 命輝く 冬木の芽

日々気合 入れて生きなむ 寒の雨

変転の 世に背を向くる 寒鴉

痩せ骨に こころざしあり 初明り

大逆の 刑徒偲ぶる 寒暮かな

(路上生活者襲撃の報に接して)
雪降らば 野宿の辛苦 思ふべし

日脚伸ぶ 生きる意欲の 湧き出づる

啓蟄や 五臓六腑に 気力満ち

かそけくも 輝く命 蔦若葉

アイヌ史に 涙を零す 弥生かな

やはらかき 雨に一輪 初桜

遅咲きを 待つこともなき 花吹雪

春雷に 死者たちの声 重なれり

花影や 死は工(たく)まれて 訪るる

常闇の 真中貫く 春の雷

(ペルー人質事件の報に接し)
鏖殺を 賛美ばかりの 春の果

諫早湾干拓の記事を読んで)
五月雨を 分けてやりたし むつごろう

蛍火や 不思議なるもの 命なり

しがらみを 捨つれば開く 蓮の花

葉隠の 一節誦す 暑き夜

夏の月 窓に鋼の 格子かな

原爆忌 無人の庭に 日の注ぐ

歳月は かくも足早 敗戦日

射干(ひおうぎ)や 受けし恩義の 限りなく

牢獄の 義民も耐へし 炎暑なり

草莽の 志士の無念や 大旱

(荒井なほ子さんの墓碑)
墓碑銘は 倶会一処とや 萩の花

朝ぼらけ 義民奔(はし)りし 青田道

困民の 駆けし山坂 暑からむ

天地に 齟齬ありぬべし 秋暑く

革命の 夢破れたり 遠花火

あくがれは 櫛風沐雨 赤とんぼ

目瞑れば 霧のなかなる 吾が荒野

革命を なほ夢想する 水の秋

風に立つ そのコスモスに 連帯す

ゲバラの死後三十年)
ゲバラ忌や 小声で歌ふ 革命歌

狼や 見果てぬ夢を 追ひ続け

狼は 檻の中にて 飼はれけり

来し方を 思ふことあり 小夜時雨

また受くる 処刑の報や 冴ゆる夜

時として 思ひの滾る 寒茜