もうだいぶ前、BS1で「ロシア 愛国者の村」という番組を見た。
http://www.nhk.or.jp/democracy/yotei/index.html
(以下はその時の感想)
ある企業家が、ロシアの若者などを対象に、愛国心教育をするためにつくった村の特集。
見ていて、ただただ驚いたのは、ロシアのナショナリズムのすごさ。
「ロシアは神に選ばれた国、神に選ばれた民」なんて言葉が連発される。
また、「皇帝の復活」ということまで言われていて、帝政ロシアを復興したいみたいだった。
なかなか、帝政の復活はむずかしいみたいだったけれど、ロシア正教の復興運動は確実に成功しているみたいで、国の行事やパレードは、ロシア正教と密接にかかわるように今日なっているようだった。
あと、愛国者の人々の、「混乱」への恐怖と嫌悪と反感に、強い印象を受けた。
彼らは口々に、ペレストロイカ以降の混乱が失敗だったこと、秩序と服従が必要なことを口をすっぱくして言っていた。
そして、若者も、それをよく聞いていた。
大統領の命令に服従し、秩序を守ることが、一番大事なことらしい。
うーん、それほど、ペレストロイカやソビエト崩壊後の混乱に、ロシアの人々は傷つき苦しんだということなのだろうか。
そこまで混乱を恐怖嫌悪し、秩序を志向するということに、改めて驚いた。
やっぱり、日本や欧米とはぜんぜん違う精神や体験の国なんだろうなあと思った。
また、ヨーロッパへの反感がものすごく強いことにも驚いた。
ヨーロッパやアメリカは自分たちを世界の中心と思っている、ロシアはそれは認めない、独自の道をいく、といい年をした中年の人たちが、大勢で主張していた。
うーん、ヨーロッパやアメリカが自分たちを世界の中心と思ってることは、たぶんそのとおりな気がするけれど、そこまで反感を感じるとは、やっぱり帝政やソビエトの頃、ロシアは自分たちが世界の中心と思っていて、いまそう思えないことに苛立っているんだろうなあと思った。
「ヨーロッパから汚い風が入ってこないように窓を閉めなくては、民主主義とかの」と言っていたのには、しっかしなんだかなあと思った。
何より、驚いたのは、若者や青年たちや、大人たちも、口々に「敵がいつ攻めてくるかわからない。」「敵にそなえなければ」「敵」「敵」と、
やたら「敵」という言葉を連発して、「敵」を恐怖して、ロシアを守ると言っていることだった。
そもそも「敵」って何なんだろう?
具体的な、実際の存在でなく、自分たちでつくりあげた妄想に恐怖しているような、こっけいさと、不気味さがあった。
だいたい、ロシアはあんなに広大な国土と巨大な軍事力を持ちながら、何を恐れているんだろう。
ものすごく、被害妄想と恐怖心に満ちているんだなあと、ただただ驚かされた。
と、少々、こっけいな、だが不気味な、ロシアの愛国者たちの姿を見て、二つのことを考えさせられた。
ひとつは、こんなふうに、ありもしない脅威や恐怖を過剰に感じて、なんだかよくわからない「ごっこ」に明け暮れている彼らの姿は、ひょっとしたら他人事ではないのかもしれない。
日本も、すでに強力な自衛隊を持ち、国際的にも高い地位を持ち、しかもアメリカとも同盟関係を結びながら、いつも被害妄想に満ち、隣国から侵略されないか過剰な防衛心に満ちている人もけっこういるような気がする。
あんまり、ロシアのことは笑えないかもしれない。
また、ロシアの愛国者村の愛国者たちは、ロシアの全人口から見れば、ごくごく小数かもしれないけれど、ああいう風潮や空気がけっこう強くて、社会的にも影響が強いとすると、困ったものだなあと思う。
ペレストロイカ以降、ソビエト、および崩壊後のロシアは、ずいぶん西欧や世界との協調路線を歩いてきたと思う。
しかし、最近、だんだんとまた大国への道を歩みだしているし、アメリカの覇権に挑戦する姿勢を見せ始めているようだ。
ロシアは、国土といい資源といい、世界の中で並外れているし、かつてアメリカと世界を二分した力を本来は持っている。
妙なナショナリズムにとりつかれて、また大国主義を振り回し始めるとすれば、困ったものだなあと思う。
ロシアの人々に、決して欧米や日本はロシアを侵略はしないし、孤立はさせないということを繰り返し伝えていくことが大事なのかもしれない。
友好のシグナルをきちんと送って、過剰な心配を取り除いてやることが大事なのかもしれない。
今日から見れば、少々こっけいなロシアの警戒心は、モンゴルやナポレオンやナチスに破壊された過去の深刻な歴史が背景にあるのだろう。
そのため、ああもこっけいな愛国主義に未だにとりつかれているのかと思うと、少々気の毒ではある。
ロシアは、本来はとても豊穣な精神文化を持った、とても良い国だと思う。
病んだナショナリズムにこれ以上取り付かれることなく、もうちょっと恐怖心を取り除いて、西欧やアメリカや日本に無用な敵愾心を燃やさずに、平和にいって欲しいなあと、番組を見ていて思わずにはいれなかった。