そういえば、旧聞に属することだが、今年、前法相が死刑執行の場に赴き、刑の執行に立ち会ったという。
死刑制度の是非、および執行に大臣が署名することの是非はとりあえず置いておいて、私は大臣が現場に赴き、きちんとその目で刑の執行を見届けたことは、立派だと思う。
少なくとも、もし大臣が署名するならば、現場に立ち合わずに署名だけするよりは、署名した大臣がきちんと現場に立ち合うことには意味があると思う。
人の死というのは観念ではない。
具体的な生々しい事実だ。
我々は、ともすれば死刑を、何か抽象的な制度のように思い、具体的にその現場で何が行われているか、はっきりと知ることも、ありありと想像することもなく済ませている。
死刑は、決して抽象的な制度ではなくて、その執行の現場では生々しい凄惨な現場がある。
私は実際に死刑執行の現場を見たことはないけれど、つい最近、一冊の本とある番組を見て、そのことを考えさせれ、考えなくてはいけないと思わされた。
また、ETV特集「死刑裁判の現場」という番組を見た。
我々は、死刑の存続を主張するにしろ廃止するにしろ、まずは抽象的なものとしてではなく、死刑を具体的なものとして知ることが大事なのだと思う。
特に、死刑の執行を命じる立場の大臣は、単に紙の上の署名ではなく、その命令によってどのようなことが現場で遂行されるかを知り、ありありと想像する心を、本当は持たなくてはならないのだと思う。
法相には、できれば、死刑執行の現場に立ち合い、具体的にどのような感想を持たれたのか、詳しく国民に向かって語って欲しいと思う。
そして、これから先、法務大臣に就任した政治家には、もし死刑の執行に署名するならば、必ず死刑執行の現場に立ち会うようにして欲しい。
死刑の存続を支持するにしろ廃止を主張するにしろ、主張そのものよりは、まずは現場に高官が立ち合い、そして現場の様子を直接でなくても間接的にでも国民が詳しく知ることが大事なのではなかろうか。
国民的な議論は、そこからのみ本当の意味で始まりうると思う。