雲井龍雄 「息軒先生に呈す 其の二」

「息軒先生に呈す 其の二」


天数有消長  天数に 消長あり
人道有隆汚  人道に 隆汚あり
所以賢也聖  賢たり 聖たる所以
行蔵或相殊  行蔵 或ひは相殊(ことな)る
唯吾狷而急  唯(ただ) 吾(われ) 狷にして急
不能與化倶  化と倶(とも)に する能はず
自立多崖異  自立 崖異多く
心跡毎易孤  心跡 毎(つと)に 孤になり易し
唯有区々志  唯(ただ) 区々の志あり
死生誓不渝  死生 誓って 渝(かは)らず
臨難豈苟免  難に臨み 豈(あに) 苟(いやしく)も 免れんや
知冤未自誣  冤を知るも 未だ自ら誣(いつは)らず
雖有愧前哲  前哲に 愧づる有りと雖(いえど)も
猶足立懦夫  猶(なほ)懦夫(だふ)を 立たしむるに足らん


(大意)

人の運命に満ち欠けがあるように、
人の道徳にも盛んなときと衰える時とがある。

賢者とされ、あるいは聖人とされる理由となる、
人の生き方や行動というのも、
時代によって評価が異なってくるのだろう。

ただ、私は、あまりにもかたくなで生き急いだのか、
世の中の移り変わりに、
うまく適合することができなかった。

独立自尊の心のあまり、
角が立って世の人々と異なることが多かった。

心の辿ってきた道を思い出せば、
いつも孤独になりやすかった。

ただ、とるにとりない身の私なりの、志があった。

生きるも死ぬも一貫して変わることはなく、
苦難にのぞんでも決して逃げて免れようとはしなかった。

無実の罪だと知っていても、決して逃れるために嘘をついたり偽ったりしたことはなかった。

過去の偉大な先人たちにはひけをとるかもしれないけれど、

私の生き方と生涯は、
きっと後世の意気地の足りない男たちを、
奮い立たせ、勇気を与えるには、十分足りるものだったと思う。