雲井龍雄 「息軒先生に呈す 其の一」

「息軒先生に呈す 其の一」


身世何瓢颻  身世 何ぞ瓢颻(ひょうよう)たる
浮沈未自保  浮沈 未だ自ら保せず
俯感又仰歎  俯感し 又 仰歎し
心労而形槁  心は労して 形は槁(か)る
微躯一致君  微躯は 一に君に致し
不能養我老  我が 老を 養ふこと能はず
揮涙辞庭闈  涙を揮(ふる)つて 庭闈(ていい)を辞し
檻車向遠道  檻車 遠き道に向ふ
鼎鑊豈徒甘  鼎鑊(ていかく) 豈(あに)徒らに 甘からんや
平生有懐抱  平生 懐抱あり
此骨縦可摧  此(こ)の骨は 縦(たと)へ 摧(くだ)く可(べ)きも
此節安可境  此の節は 安(いづくん)ぞ 撓(たわ)むべけんや
我命我自知  我命は 我れ自ら知る
不復訴蒼旻  復(ま)た 蒼旻(そうびん)に訴えず




(大意)

人の一生というものは、
どうして風に吹かれる木の葉のようなものなのだろうか。
浮き沈みも、自分で今までままならなかった。

うつむき、また天を仰いでは嘆き、
心身ともに疲れはてた。

この私のつまらない身は、
ひとえに主君(天皇)のために用いてきた。

そのために、
穏やかな老後を養うことはできなかった。

涙を振り払って家族たちと別れを告げ、
囚人護送用の檻のついた車に乗り込む、
処刑場までの遠い道のりへと向かう。

そこでは、釜茹でのような、地獄の極刑が待っているのだろうけれど、
私には日ごろから抱負と志があった。
(だから決して怖くはないし、逃げようとも思わない)

この私の肉体と骨はたとえ拷問や処刑によって砕き折ることができるとしても、

この私の節義は誰も曲げることはできないのだから。

私の使命と天命は、私自身が知っている。
だから、ことさら、この青空に私の運命や悲しみを訴えようとは思わない。