雲井龍雄 「臥病八首の一」

「臥病八首の一」

昔為憤世人  昔は憤世の人と為り 
今為傲世人  今は傲世の人と為る
仰與青山契  仰いで 青山と契り 
俯與緑水親  俯して 緑水と親しむ
蠖也任其屈  蠖也(かくや) 其屈(そのくつ)に任せ
何必求我伸  何ぞ 必ずしも我が伸ぶるを求めんや
好與沮溺耦  好し 沮溺(そでき)と耦(ぐう)し
莫答人問津  人 津を問ふも 答ふる莫(な)からん
睥睨天地裡  睥睨す 天地の裡
山水足寄身  山水 身を寄するに足らん


(大意)

昔はよく世の中を憤ったものだが、
今は世の中を軽く見て離れる人間となった。
(病気療養のため)

仰いでは青々とした故郷の山と親しく交わり、
うつむいては足下を流れる緑色の故郷の小川と親しく遊ぶ。

しゃくとりむしは身をかがめるに任せて、
べつに伸びようとばかりはしない。

よし、そのように、私も、古代中国の長沮と桀溺のように、自ら家族と一緒に耕し、自然の中で暮らそう。
長沮と桀溺が、孔子の一行に渡し場を問われても答えなかったように、私もあえて答えまい。(人には人の道に任せ、私は私の道を生きよう)

この天地を睥睨して、自然の中で生きていこう。
このような私であっても、この故郷の山河自然には、私が身を寄せるだけの場所はあろうから。