雲井龍雄 「肥後邸に、岡松・藤本・田尻諸翁と会し、酒間、筆を走らす」

「肥後邸に、岡松・藤本・田尻諸翁と会し、酒間、筆を走らす」

大木縦将倒  大木 縦(たと)へ将に倒れんとするも
一縄猶可支  一縄 猶(なほ) 支ふ可(べ)し
包胥酬楚日  包胥 楚に酬ゆるの日
子貢使斉時  子貢 斉に使ひするの時
天地如無愧  天地 如(も)し 愧無くんば
死生何有疑  死生 何ぞ 疑ひ有らんや
此心深與浅  此(こ)の心の 深と浅と
知者竟為誰  知る者は 竟(つひ)に誰とか為す



(大意)

大木がまさに倒れようとしている時であっても、
一本の縄があれば、支えることができる。

それと同じように、この日本という国が瓦解しかかっている時にあって、
あえてその倒壊を防ぎ支える一本の綱に私はなりたい。

楚の忠臣の申包胥は、呉の大軍に祖国が滅ぼされかかった時に、秦の国王のもとに赴き援軍を要請し、乗り気でない秦王に対して七日間一滴の水も飲まずに援軍を訴え続けて、祖国の危難を救った。

また、孔子の弟子で魯の大臣であった子貢は、大国・斉が自分の祖国の魯を攻撃しようとしているのを知るや、斉の大臣のもとに赴いて熱弁を振るい、斉を魯とではなく呉と対立させることに成功して、祖国の破滅を救った。

その時の申包胥や子貢のように、今こそ私は祖国の危難を救うべく、できうる限りのことをしよう。

この天地の間を渡っていくにあたって、もし自らかえりみてなんら恥じることがなければ、
生きるも死ぬも、どのようなことがあろうと、なんの迷いも疑いもない。

この私の国を思う心の深さは、
今の時代においては、いったい誰がわかってくれるだろうか。
(きっと諸君たちがわかってくれると信じている)