雲井龍雄 「羽倉鋼三郎に示す」

「羽倉鋼三郎に示す」


粗豪自許国干城  粗豪 自ら許す 国の干城
胸裏常儲百萬兵  胸裏 常に儲(たくは)ふ 百萬の兵
斉趙渝盟秦業立  斉趙 盟を渝(か)へて 秦業立ち
蜀呉構難魏謀成  蜀呉 難を構へて 魏謀成る
輸誠或不回天意  誠を輸(いた)すも 或は天意を回(かへ)さざらん
守節只須舎吾生  守節 只須らく 吾が生を舎(す)つべし
脱却人間多少累  脱却す 人間 多少の累
横空正氣浩然盈  空に横たはる正氣 浩然として盈(つ)



(大意)

粗雑な豪気というべきかもしれないが、
私は、国の盾となり城となり、この国を担う人物だと、自ら任じてきた。

心の中に、常に百万の兵を養い、腹中に形勢機略を諳んじてきた。

しかし、かつて歴史において、(春秋戦国時代の)斉と趙が盟約を忘れて仲違いして秦にやられたように、
また、(三国志の)蜀と呉が相争ったために、魏の天下取りの謀略が成功したように、
奥羽列藩同盟は団結できず、薩長に敗れ去ってしまった。

これでは、どれだけ至誠の限りを尽くしても、天の意志を変えて、状況を変えることは難しい。

そうであれば、この上は、男児の大節を守り志を変えず、この命を捨てて死中に活を求めるしかあるまい。

そう腹をくくれば、この人の世の、多少の禍福は気にかからず、超越することができるだろう。

この大空いっぱいに存在している天地の正氣が、浩然の氣が、この五体の内に満ち満ちてくる。